飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その二十六)

「よくも、こんなに寝ていられるな、退屈もしないで。何日寝たきりなんだ。」
 戸を開けるが早いか、洋一が言った。
「寝てなんかいないさ、女と遊んでいたのさ。ただそれを隠すために、学校に行かなかっただけさ。」
 和夫が憤慨した顔で言った。
「そう、俺は女にもてるからな。君達とは違うのさ。」
 俺は居直った言い方で、冗談として流そうとした。
 洋一がそれを受けてくれた。
「よく言うよな。俺の方が男前だと思うけどな。」
 髪を撫で上げながら言った。
「そう言えば、お前もしばらく居なかったじゃないか。そうそう、そうだよ。和夫だっていなかったじゃないか。」
 俺が言うと、洋一は陽気に答えた。
「実はな、俺も女の所よ。」
 ところが、和夫は仏頂面になった。
「俺は違う。訳は言えないけど、俺は違う。」
 彼がおどおどしく言い出すと、洋一が冷かすように言った。
「言え、言え、隠すなよ。ははあん、お前も俺達と同じだな。うんきっとそうだ。そうに決まっている。……。言っちまえよ。」
 和夫の顔色が増々かわっていった。彼の興奮を表わす頬の引きつりがもう起きていた。
 今日は面倒が嫌だった。このままでは、彼は癇癪を起こす。これはまずいと思った。
「止めとけよ。……。冗談だよ。単なる冗談さ。」
 俺が、仲に入った。
 和夫の顔色は変わらなかった。セーフだった。
 飛び出してバラライカを聞くまでには事は進まなかったのだ。
「俺にもコーヒーをくれよ。」
 しばらく間があって、洋一が催促した。俺はもう一つのカップを出して準備した。湯を沸かそうとして立ち上がろうとした。
「ああっ、いいよ、それで充分。俺は猫舌だから、かえってその方がいいのさ。」
 彼はそう言って、俺の手からヤカンを取った。俺はそのまま座わり直した。
 俺は、サイフォンと茶の事を洋一にも話した。彼は物知り顔で言った。
「コーヒーが好きなのは、自意識過剰気味で、茶の湯を嗜好するのは気取り屋なんだってき。紅茶の好きなのは、ざっくばらんな性格なんだってさ。」
「本当か。そんなことがあるもんか。」
 俺が反論すると、彼は真顔で言った。
「いや、これは本当の話き、統計的に研究した奴がいるんだってさ。……。そうそう、レモンスカッシュが好きなのは面食いが多いんだってよ。」
「統計学的って言うのがくせもんだな。占いだって、考えようによっては、統計の結果と言える訳だけど、結局は当たるも八卦当らぬも八卦となる訳だからね。」

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  1. 2009/05/27(水) 09:53:44|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十五)

 今日はこれ以上怒らすことさえ面倒に思った。
 彼が少し落ち着くのを待って、機嫌を取った。
「お茶を飲むか、それともコーヒーが良いか。」
 俺は話をそらすために言ったのだが、彼は素直に答えたのだ。
「コーヒーがいいな。」
 俺は戸棚から、カップを二つ出した。インスタントコーヒーの瓶を握りながら、昨夜の事を思い出した。飲み代になってしまった金で、もしかすると、サイフォンのコーヒーが飲めるようになったかも知れない。ちょっと惜しいことをしたようにも思えたのだ。
 和夫は、ヤカンを持って立ちあがった。そして、廊下にあるガスコンロにかけてくれた。部屋に入るのを待って、俺はサイフォンとお茶の話を始めた。
「俺さ、サイフォンが欲しくて昨日出掛けたんだけれども、飲んじまってパーさ。それに、抹茶の道具も買う予定だったんだけれど、これも駄目さ。」
 俺は少し大袈裟な動作をつけて話した。すると、彼はこの事も気に入らないらしいのだ。全く疲れる。
「お前の考えは、ブルジョア的だ」
 彼はさう言うのだ。
 俺は反論した。
「お茶はもとはと言えば、貧民の薬だぜ。それに、抹茶の道具を持つて、不断の茶飲みに出て行く村だってあるんだ。観念的に茶は金持ちのする事と発想するお前こそ、そのお前の言うブルジョア的じゃないか。」
 彼の顔がまた引きつった。俺は、今回はこれ以上彼を興奮させたくなかったことを思い出した。彼に反応してイライラしている自分を落ち着けた。幸い彼は出て行く気配はなかった。
 俺はコーヒーの粉を二つのカップに入れた。
 窓から入る光が揺れだした。廊下の小さなヤカンから湯気が出ているのだろう。まもなく、湯の沸騰する音が聞えてきた。その間も、それからも、しはらく二人は黙ったままだった。
 和夫が立ち上がった。窓からの影が大きく映った。音が消えた。和夫がヤカンを持って部屋に入ってきた。
 立ったまま二つのカップに湯を注いだ。台にヤカンを置くと、座わって、「砂糖」と要求した。俺は砂糖の入った瓶を戸棚から出して、二つのカップに入れた。
 話が途切れて気まずいのだが、彼は帰る気配を見せなかった。二人は黙ってコーヒーを飲んだ。

 向かいの部屋の戸が開いて、俺の部屋がノックされた時、俺はほっとした。
「どうぞ」
 俺が言うと直ぐだった。戸が開いた。気まずい空気がそこから漏れていった。
 そして、そこには洋一が立っていた。

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  1. 2009/05/21(木) 08:05:25|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十四)

 それでも、彼のお題目とまともに論じ合う気にはなれないのだ。余りにもまとも過ぎて、俺の趣味には合わないのだ。いつも彼の言葉の揚げ足を取っては楽しんでいた。
 あの時は、何の話だったのかは忘れた。が、帰る時に、戸じまりを何度となく確かめたことは忘れられない。彼の剣幕の度の越しようは異常である。俺は殺されるのではないかという不安さえ抱いた事があるのだ。

 彼に言わせれば、俺は人当りの良い、そのくせ心の底では他人の事など微塵も思っていない人間だという。エゴの固まりだが、そのエゴを隠すのに巧みなそうだ。このタイプは世渡りがうまいのだそうだ。
 俗にいう出世タイプなのだそうだ。その事が彼は気に入らぬらしいのだという。こういう人間が存在するだけで、悪だともいう。例の題目を唱える口調で何度「断固粉砕」とやられたことか。

 そうかもしれない。そういう能力が俺には備わっているかも知れないとも思わないわけでもない。生来他人に好かれるようにと振舞っているし、そうし続けることでその演出の力が備わっているとも思うのだ。他人の前に出たくないと思ってはいるが、本当は他人の前に出ると疲れるのだ。その疲れる原因は、全神経を使って他人を意識するからとしか考えられない。どんな雑談の中でも、俺は構えているのは確かだ。万人に良く思われたいという意識が働らくらしい。だから、自分を押し通す事はないし、判断を迫られても、確実にその通りだと思わなければ曖昧にしておく。いや、確実なことでも、それを言えば誰かが不平を言う可能性があると思えば、何も言わない。これは究極的には彼の言うエゴが根になっている事かもしれないと思う。そうかもしれないが、俺はその事を悪いとも思ってはいない。
 それが、彼にとっては身震いするほど嫌いな事なのだろう。彼は本気で俺を抹殺しようと考えていると何度思ったか。その度に俺は用心したのだった。
 しかし、俺は、本当には彼を嫌ってはいない。むしろ、好きなタイプだ。彼はそれだけ俺を見抜いているのだし、ストレートに俺自身に言ってくれるのだから。
 それでも彼とまともに論じ合う気にはなれない。極端過ぎてついて行けないところがあるのだ。俺は彼の言葉の揚げ足を取ってしまうことになるのだが、それがまた楽しいのだ。彼は興奮するが、言葉は紋切り型なので直ぐに茶化す事が出来る。
 もっとも、そうした夜はいつもより戸締りを厳重にする必要はあった。興奮の度が越すと、彼は俺の部屋の戸を力任せに開け閉めして、更に、自分の部屋の戸も物凄い音を立てきせて開け閉めするのだ。
 それでも治まらないのか、壁の向こうを、どたばたと大きな音を立てて歩き回り、しきりにヒットラーの名を叫ぶのだ。本当にヒステリックに叫ぶのだ。

  1. 2009/05/18(月) 13:53:41|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十三)

「まあ、座われ」
 彼は素直に戸を閉めて、俺の言うことに従った。そして、しばらく本棚を眺め回していたが、思い出したのかのようにまた始まった。
「お前はエゴの固まりだ。」
 俺はゆっくりと彼に尋ねた。
「そう、俺はエゴの固まりさ。だけど、どうしてそういきり立っているのだ。」
「また、知らっぱくれて……。お前は一週間休んで何をやっていたんだ。大体お前のやっていることは女を不幸にしている。」
 いろいろ話をすることをつないでいくと、彼が啓子の事を言っていることがわかった。ラーメン屋のアルバイトの男は和夫の先輩なのだろうと想像できた。同好会か研究会かの先輩なのだろう。
 俺は平静を装って言った。
「先輩だの誰だのっていって、何の話なの……。兄貴の女に手を出すなとかいうことかねっ。」
 俺が煙草を取って火をつけると、彼も黙って俺の煙草を一本抜き取って、人差指と親指で吸い口を摘んだ。ロをとんがらせて、煙草に吸いついた。俺はマッチの火を差し出した。彼は素直に俺の差し出した火で煙草に火をつけた。そして、言った。
「何でお前はそういう言い方しか出来ないんだ。もっと真面目になれよ。一人の人を不幸にしている事位はわかっているんだろう。」
 俺には別段そういう意識はなかった。俺はふてくされたように言った。
「そうそう、俺は誰をも不幸にするのさ。皆が不幸のどん底に落ちっちまえばいいのさ。そこから這い上がった奴だけが生きていけるのさ。そして、俺には救世能力などないから黙って見ていればいいっていう訳さ。」
 どうも、彼と話をすると、調子が合わない。それでも合わせようとするから、互いにお題目の唱え合いのようになってしまう。相容れない宗教の信者同志の話し合いのようになってしまうのは毎度の事だ。 そのあげく、彼を茶化してしまっている。彼は真面目なので困る。
 面倒なときは、彼を怒らせてしまった方が話が簡単に終わっていい。だが、今日は少し早かったかも知れない。彼の顔色がもう変わってしまった。
 前にも早くから、からかい過ぎてしくじったことがあった。彼の興奮は度を越している。彼には信念があって、それを裏切られると想像もできないほど興奮する。それだけ純粋なのかも知れない。
 その彼によれば、俺は人に好かれ、出世するタイプなのだそうだ。世渡りがうまいという。言われてみると、そうかも知れない。表面ではそうではないように振舞ってはいるが、本当は俺にはその能力が優れているのかも知れないとも思ことがある。彼はそれを見抜いているのだ。そして、その見抜いた事をストレートに批判して俺に言うのだ。そういう彼を俺は嫌いではなかった。むしろ好意を持っているといってもよかった。

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  1. 2009/05/17(日) 08:47:43|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十二)

「二人なら死ねるのね」
 彼女は感概深そうに言った。ガスの臭いが息先に流れた。彼女は立ち上がると、ゆっくりガスの元栓を閉じた。
 俺は留息が出た。そして、ようやく窓を開ける事を許可きれている事に気付いた。
 俺は黙って窓を開けた。それから、彼女を振り返り微笑んだ。俺は微笑むという行為を、自分の判断を曖昧にする時に使っていると気がついた。
 洋子に知れるなと思った。町子はきっと洋子に話すだろう。洋子の前で下卑た冗談も言った事はあるのだが、啓子との事を知られるのは嫌だった。実感を伴って洋子の心に意識されるだろう事が嫌なのだ。一歩位離れた所で冗談が言えるようでありたかった。
 洋子の部屋に行けば、必ず茶祇台を挟んだ向こうに座わる。その位の距離が欲しかった。決して隣に座われる近さでもなく、遠く離れるでもない、不安定な位置に置きたかった。時々見せるエプロン姿のくだけた態度と、学校でのつんと澄ました態度の調和の上に、彼女を置きたかった。それが崩れるであろう事を思ったが、なすべき事を知らなかった。その時も無意識に薄笑いが出ていた。

 帰ると直ぐに寝転んだ。疲労感があった。が、どことなく心地良かった。彼女の感覚が俺の身体に残っていた。電気をつけないでいた。部屋の暗さが増してきた。向かいの洋一の部屋に灯がついたのだろう。明りが漏れてきた。俺は静かにして、音をを出さないようにし ていた。
 啓子は何を考えているのか、解せぬ事ばかりであった。結局俺は利用されたのだろうかとも考えたが、それを納得はしたくなかった。六ケ月程で彼女は俺の前から姿を消す筈なのだ。そして、昨夜酔いの中で垣間見た男と一つの家におさまり、主婦という名の女になるはずなのだ。子供が出来て、あたふたと家事に追われ、その中に幸福を見出す女になるだろう。その女が今になって馬鹿げた行為をしなければならないのだろうか。分かるような気もするが、どこか解せぬところが残ってしまう。
 あれこれと考えているうちに、外からの光は人工の光だけになっていた。
 煙草を手探りで探した。
 隣の部屋の戸が開く音がした。例のごとく、しばらくがたがたと音を立てていたが、ヒットラーへの挨拶が始まって、ロシア民謡のレコードが掛かった。直ぐに隣の戸がまた開いた。そして、俺の戸をノックする音が聞こえた。俺は声を出して返事してしまった。しまったと思ったが遅かった。起き上がったのと、戸が開いたのが同時だった。
 和夫が入って来た。和夫が電気をつけた。眩しい橙色の光が俺の網膜を刺戟した。眼が慣れてくると、そこには和夫のしかめ面があった。
「お前を許せない」
 突然、彼が言い放った。
「お前は人を不幸にする。断じて許せない。人は皆、幸福にしてやらねばならぬ。」
 彼が何を言おうとしているかは定かではない。だが、彼のお題目を唱える口調は何時もの事だった。驚く事ではないのだ。

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  1. 2009/05/16(土) 11:08:25|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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