飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その三十)

 もっとも、彼が今年の春休みにガリ版刷りで『村人は伝説を断て』と題したビラをまいた時から、彼は村との交渉を断ってはいるのだが、……。

 この話は、俺にとっては聞き飽きた話だ。彼は得意になって話をするが、こちらは何度も聞かされている。
「聞いたよ、前にも。だから言っているだろう、元々人間は真面目な顔しているけれど、やっている事ときたら、ほとんどがくだらない事さ。……。ほらっ、前にも話したじゃない。山本先生さ、統計の実験の話をするのにおちんちんの掴み方で鋭明するって話をさぁっ。あの真面目顔で……。」
「ああ、聞いたよ。どう持つかっていうやつだろう。人差し指と親指で挟むか、人差し指と中指の間に挟むかというやつだろう。」
「そうそう、それさ、皆が喜んで聞いてるし、俺もそうだけども、良くわかるんだ。」
「そう言えはそうだよな。何々の研究なんて言うから大それた事をやっているのかと思えば、そんな大層なことをしていないようだよな。お前らがやっていることもそのたぐいだろう。シジミに何の成分が入っているのかっていうんだろう。どうってことないって言えば、どうってことないよな、確かに。」
 目的はあるが、言われてみれば確かにどうということのない事だ。それよりは一週間の間、退屈もしないで部屋に閉じ込もれたということの方が貴重な事かも知れない。眠る瞬間を感知するというのは、それだけで目的も含んでいるのだから貴重な試しかもしれない。その貴重な事を俺はやったという満足感がある。啓子の部屋で、確かに俺は眠る瞬間を見たのだ。その充実感は、今もあるのだ。
 俺は彼に話してみたくなった。今夜は出てきて良かったと思った。ついでに啓子のことも話そうかどうかという迷いもあったが、成り行き次第にしようと決めた。

 田舎町は、もう一日を閉じようとしていた。啓子と来た時と比べても三十分しか遅くないのに、街はもうすでに暗かった。六時三十分までは街には活気があるのだが、たった三十分しか違わないのに、七時にはこの街は完全に眠りの世界に入るのだ。この三十分の間に、ここに住む人々は、規則正しくおやすみなさいをするのだ。店は灯を消し、シャッターを降ろす。健全な街である。ユニホームを着せられたような街である。今の時間でも反抗しているかのように灯を点し、僅かに活気らしさものがあるのはパチンコ屋と飲み屋、喫茶店ぐらいしかないのだ。
 それだって、この街では、午前の二時を過ぎるものはない。俺はその事がとても不満なのだ。実験中など、部屋に一人籠って一息ついて外に出れば、そこは静かな眠りの世界なのだ。夜中なら仕方がないだろうが、七時や八時という時刻に、こちらにまで静けさを要求されるのだ。家々の電灯だけが、憩いの明かりを点しているのだ。俺は、部屋に戻って他の部屋に迷惑がかからぬように細心の注意を払い、少しだけ騒がせていただくのだ。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/06/18(木) 15:33:50|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十九)

「そうそう、あのさ、ほら、腕を組んでも落ちない女よ、何て言ったっけ。ほら、お前が言っていたじゃないか、一度腕組みしたら、おっぱいに引っ掛かって落ちねえだろうって言っていた女よ。」
「ああっ、あいつか。政恵か。」
「そうそう、その政恵っていうのか、その女、最近痩せたよな。痩せたとたんおっぱいも小さくなったみたいだぜ。痩せるとおっぱいも小さくなるんだな。」
「それはそうだろう。一度脹らんだやつが、中味が減っちまうんだから、垂れ下がるのはあたりまえさ。脹らました風船の空気が漏れっちまったのと同じ事だろう。」
「しかし、お前も真面目な顔をしとって、意外といやらしいことが言えるんだな。今まで深刻な顔をしとって、急にがらりとかえてよくそれだけ言えると思うよ。」
「いやいや、俺は客観的に見てるだけさ。科学的にそうなるだろうって言うだけの話でしかないよ。」
「しゃあしゃあとよくも言うな。」
「下卑た話は皆が好きだし、興味を引くさ。お前が調べている民話だって下卑ていたり、汚ないのに明るく朗らかな話の方が多いって言ってたじゃないか。」
「いや、今残っているのはそれほどでもないよ。だけど本当は外向きの人に話して聞かせる外来の都会人に話す物語と、筋的には同じなんだが、村人同志で話して聞かせる時にアドリブ的に入る表現とがあるみたいで、我々に話す時と本当は表現が違うみたいな気がするんだ。」
 彼は夏休みになると、山の村に入るのだ。集会所に寝起きさせてもらって、村中の物語を調べ歩いているのだ。山村とはいっても、一時間もバスに揺れるとそこに着いてしまう。だから、寝泊まりする必要はないのだが、実感を伴った聞き取りがしたいということにこだわっているようなのだ。もう二年間続けている。
 いつかそれをまとめたいと言っていたが、何かに発表したりするということではなく、いつかその村の人に返してやることが楽しみなのだという。村への道路も整備され、どの家にも乗用車があって、今でも地方の都市との暮らしの差はほとんどない。
 これからの時代は、恐らく便利さや開発に目が向いていく。そんな中で、これらは消えていく。そんなときに、集めておいた物語を村の人たちに還していく。
 いつのことになるのか、そういった時が来るのか、その時に彼はそこにかかわれるのかといった要素が不確定であり、実現する可能性の低い夢物語を語る。
 その中で、彼は村人の物語には、エロとグロのおかしさと、村人の劣等感の世界だと言うのだ。
 うんちの話と父ちゃんと母ちゃんの露骨な話が出た時は、自分も村人の一員として話をしてくれているというのだということで嬉しくなるという。

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  1. 2009/05/30(土) 10:58:23|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十八)

 そうか、それでしばらく彼らは俺の部屋に姿を現わきなかったのか。俺は少し嬉しかった。が、それを素直に表情に出すことはできなかった。ましてや、言葉に出して感謝するなどというのは嫌だった。
「そうさ、君達の考えた通りだったと思うよ。ほっといてもらって有難かったよ。へたに気をつかって出入りされたんじゃあ、持たないぜ。」
「今日もか。」
 彼は一言だけ聞いた。俺は一瞬どきりとした。何と答えたらいいかと考えた。が、直ぐにここは素直に応えた方がいいと思った。
「いいや、今日は別さ。飲みたい気分になっている。」
 本当は、今夜ではなくて、体調が戻るのを待ってもらえればもっといいとは思っている。体力的にはもう飲みたくはない。その意味では嘘をついている。しかし、彼の、そして、周りの気通いには感謝している。その気持ちからすれは、本当に素直な返事ではあるのだ。同時に、本心で、気遣うことなく、素直に自分の気持ちを出して人と話をしたいようないい気分であった。
「ようし、そんなら、今日は飲むぞ。」
 洋一はそう言うと、自分の部屋に戻って行った。
 
 俺は向かいの部屋に向って声を掛けた。
「早くしろ、行っちゃうぞ。」
 俺は、精一杯声を張り上げていた。その調子はいつもの俺の声と変わりがなかった。返事はなかった。その代わり、ドタンと大きな音を立てて彼の部屋の戸が開いた。
「よお、行くぞ、早くしろ。」
 彼は、逆に俺を急ぎ立てた。
「待っていろ。ちょっと銭を探すから。……。」
 俺が慌ててあちこちの服から小銭をかき集めるのを、彼は煙草を吹かしながら悠々と見ていた。
「今日は暑いな。ビールでも飲もうか。駅前の紅葉ビルの屋上でまだやっているそうだぜ。……ビアガーデンが一番いいよ。安くて。」
 彼は戸にもたれながら言った。俺は何処でもよかった。
「ああ、いいな。」
とだけ返事した。
 俺も仕度が出来た。二人で外に出た。まだオリオンが東の空に拝むことが出来た。
「しかし、お前も良く寝ていたよな。この暑いのにさ、蒲団かぶって寝ていたのか。」
「ああっ。」
「何があったんだ」
「……。」
 俺が返事しないのは、もう分かっている。ただ、それを確かめるように間を置いた。
 返事がない事を確かめ終えると、洋一は話題をかえた。

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  1. 2009/05/29(金) 11:33:14|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十七)

 俺がこう言うと、今までしかめっ面していたと思っていた和夫が、生き生きとした声を発していた。
「いいや、占いは当たる。人間は運命という法則があって、そのレールから外れる事はできない。なるようになるって言うのか、ともかく運命という考え方がある以上、統計を取れば当たる確立は大きいはずだ」
 彼がいつ表情を変えたのかは気が付かなかったが、今は穏やかな表情になっていた。
「考えようによってどうとも言えるな。」
 洋一がそう言ったのを切掛けにして、沈黙の時間が続いた。

 俺は、その沈黙の時間を埋めるように コーヒーをもう一杯飲む準備をした。和夫が黙って立ち上がり、ヤカンの湯を沸かし直しに行った。
「飲もうか」
 不意に洋一が言った。今日は酒を要求していなかった。ぐっすり眠りたかった。彼らと話している今でさえ、彼女の温もりが残っている。俺は一人でこのまま部屋に居たかった。
 けれども、俺は断われなかった。彼と一緒に飲まなければならぬ義務感みたいなものを感じていた。そんなものはないことは、理屈では分かるのだが、生来の性格のようなものが、俺にそういう義務感を課すのだ。しばらく考えた後ではあったが、俺は承諾の返事をしていた。それどころか、廊下から入って戻ってきた和夫をも誘っていた。
 幸い、和夫は断わってくれてほっとしたが、俺は今晩も飲み歩くはめになってしまっていた。

 コーヒーを飲み終わると、和夫は自分の部屋に戻っていった。
 彼の部屋からロシア民謡が流れてきた。
「しかし、よくも退屈しないで寝ていられたな。」
 洋一が言った。
「ずっと寝ていた訳じゃあないよ。時には街にも行ったし、ただ学校には行かなかっただけさ。どうってことないさ。」
 俺が答えると、洋一が深刻な顔をして言った。 ′
「洋子が心配していたぞ。……。おとといだったかな。うんそうだ。きのうはおまえがいなくて、話が出来なかったんだ。その前の日だからおとといだ。……。町子が風呂で洋子に会ったんだって言っていたんだった。その時にお前の話が出て、心配していたって言ってたぞ。」
 「そんなこと俺には関係ないよ。 誰が心配しようが、いちいちそんなことにかかわって、ご機嫌を取っていられないさ。」
 そういうと、洋一が少し不機嫌になった。
「そんな言い方はないだろう。少なくとも心配してもらえることに有難いとは思えよ。 俺だって気を使っていたんだ。一人にして置いてやった方がいいのか、顔を出してやった方がいいのか、いろいろ考えたんだ。それが、関係ないという一言で済まそうというのは気に入らない。……。結果的に、顔も出さない。だからか。だから関係ないのか。そういうものなのか。えっ、どうなんだよ。和夫だって本当は気をつかっていたようだぞ。それを、そんな言い方はないと思うぜ。」
  1. 2009/05/28(木) 09:40:40|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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夜の長い街にて(その二十六)

「よくも、こんなに寝ていられるな、退屈もしないで。何日寝たきりなんだ。」
 戸を開けるが早いか、洋一が言った。
「寝てなんかいないさ、女と遊んでいたのさ。ただそれを隠すために、学校に行かなかっただけさ。」
 和夫が憤慨した顔で言った。
「そう、俺は女にもてるからな。君達とは違うのさ。」
 俺は居直った言い方で、冗談として流そうとした。
 洋一がそれを受けてくれた。
「よく言うよな。俺の方が男前だと思うけどな。」
 髪を撫で上げながら言った。
「そう言えば、お前もしばらく居なかったじゃないか。そうそう、そうだよ。和夫だっていなかったじゃないか。」
 俺が言うと、洋一は陽気に答えた。
「実はな、俺も女の所よ。」
 ところが、和夫は仏頂面になった。
「俺は違う。訳は言えないけど、俺は違う。」
 彼がおどおどしく言い出すと、洋一が冷かすように言った。
「言え、言え、隠すなよ。ははあん、お前も俺達と同じだな。うんきっとそうだ。そうに決まっている。……。言っちまえよ。」
 和夫の顔色が増々かわっていった。彼の興奮を表わす頬の引きつりがもう起きていた。
 今日は面倒が嫌だった。このままでは、彼は癇癪を起こす。これはまずいと思った。
「止めとけよ。……。冗談だよ。単なる冗談さ。」
 俺が、仲に入った。
 和夫の顔色は変わらなかった。セーフだった。
 飛び出してバラライカを聞くまでには事は進まなかったのだ。
「俺にもコーヒーをくれよ。」
 しばらく間があって、洋一が催促した。俺はもう一つのカップを出して準備した。湯を沸かそうとして立ち上がろうとした。
「ああっ、いいよ、それで充分。俺は猫舌だから、かえってその方がいいのさ。」
 彼はそう言って、俺の手からヤカンを取った。俺はそのまま座わり直した。
 俺は、サイフォンと茶の事を洋一にも話した。彼は物知り顔で言った。
「コーヒーが好きなのは、自意識過剰気味で、茶の湯を嗜好するのは気取り屋なんだってき。紅茶の好きなのは、ざっくばらんな性格なんだってさ。」
「本当か。そんなことがあるもんか。」
 俺が反論すると、彼は真顔で言った。
「いや、これは本当の話き、統計的に研究した奴がいるんだってさ。……。そうそう、レモンスカッシュが好きなのは面食いが多いんだってよ。」
「統計学的って言うのがくせもんだな。占いだって、考えようによっては、統計の結果と言える訳だけど、結局は当たるも八卦当らぬも八卦となる訳だからね。」

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  1. 2009/05/27(水) 09:53:44|
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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