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そうか、それでしばらく彼らは俺の部屋に姿を現わきなかったのか。俺は少し嬉しかった。が、それを素直に表情に出すことはできなかった。ましてや、言葉に出して感謝するなどというのは嫌だった。
「そうさ、君達の考えた通りだったと思うよ。ほっといてもらって有難かったよ。へたに気をつかって出入りされたんじゃあ、持たないぜ。」
「今日もか。」
彼は一言だけ聞いた。俺は一瞬どきりとした。何と答えたらいいかと考えた。が、直ぐにここは素直に応えた方がいいと思った。
「いいや、今日は別さ。飲みたい気分になっている。」
本当は、今夜ではなくて、体調が戻るのを待ってもらえればもっといいとは思っている。体力的にはもう飲みたくはない。その意味では嘘をついている。しかし、彼の、そして、周りの気通いには感謝している。その気持ちからすれは、本当に素直な返事ではあるのだ。同時に、本心で、気遣うことなく、素直に自分の気持ちを出して人と話をしたいようないい気分であった。
「ようし、そんなら、今日は飲むぞ。」
洋一はそう言うと、自分の部屋に戻って行った。
俺は向かいの部屋に向って声を掛けた。
「早くしろ、行っちゃうぞ。」
俺は、精一杯声を張り上げていた。その調子はいつもの俺の声と変わりがなかった。返事はなかった。その代わり、ドタンと大きな音を立てて彼の部屋の戸が開いた。
「よお、行くぞ、早くしろ。」
彼は、逆に俺を急ぎ立てた。
「待っていろ。ちょっと銭を探すから。……。」
俺が慌ててあちこちの服から小銭をかき集めるのを、彼は煙草を吹かしながら悠々と見ていた。
「今日は暑いな。ビールでも飲もうか。駅前の紅葉ビルの屋上でまだやっているそうだぜ。……ビアガーデンが一番いいよ。安くて。」
彼は戸にもたれながら言った。俺は何処でもよかった。
「ああ、いいな。」
とだけ返事した。
俺も仕度が出来た。二人で外に出た。まだオリオンが東の空に拝むことが出来た。
「しかし、お前も良く寝ていたよな。この暑いのにさ、蒲団かぶって寝ていたのか。」
「ああっ。」
「何があったんだ」
「……。」
俺が返事しないのは、もう分かっている。ただ、それを確かめるように間を置いた。
返事がない事を確かめ終えると、洋一は話題をかえた。
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2009/05/29(金) 11:33:14|
- ○ 夜の長い街にて(フィクション)
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