飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その六)

 そうだ、啓子だ。いつも同じ教室にいながら、何故か思い出せなかった。それは、今日の気分とのかかわりがあるのだろう。しかし、それだけでもない。彼女がこのアパートに来る事など予期できなかったこともある。
「どうしたの、誰のところ……。」
 作り笑いをしながら俺が尋ねると、彼女は不満気な顔で言った。
「誰って、あなたのところよ。先生に言われたのよ。あなた最近おかしいから、様子を見てこいって……。自殺などされて、蛆でも湧いていたら汚ないでしょう。」
 彼女は悪戯っぽく笑った。
 俺は、部屋に戻るべきなのか、このまま出ていっていいものか迷っていた。部屋に戻るのが自然であろうが、蒲団が敷きっぱなしだ。洗濯物の籠も出しっぱなしである。それに、初めて俺の部屋に来たのに、そのまま部屋に入れることも変だとも思った。
 だからといって、そのまま帰すわけにもいかないかもしれない。
「中に入らない。」
 俺は、唐突に彼女に聞いていた。否の返事を期待していた。しかし、部屋に入らねばならない可能性もあるなとも思っていた。
「ううん、いいわ。顔を見て先生に報告すれは良いんだから。元気だったって言っておくわ。」
 俺が自分の気持ちを雰囲気の中に出していたのであろうか。それとも彼女はもともと部屋に入る気などなかったのだろうか。
 俺は彼女の言に従って戻らないことにした。一緒に階段を降りて外に出た。
 二人は並んで歩いた。しかし、話をすることは何もなかった。教室では互いに言いたいことを言っているのだが、こうして歩いてみると話すことがない。その事を気まずく感じた。俺は話し掛けようと、何度か彼女の方を見た。だが一度も声を出すことができなかった。
 沈む太陽の乱射光が俺たちに向かっていた。時々、視野に入る彼女の影は、枠取りされていた。

 小川をまたぐ小さな橋を通り、少し行ったところで、彼女がぼつんと言った。
「今度の金曜日に付き合ってくれない。……。私の誕生日なの。」
「ああっ。いいよ」
 俺の口から声が発していた。何の考えもなしにである。気まずさが救われたからだろうか。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/04/29(水) 16:59:23|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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