飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その十一)

 彼女が先に声を掛けた。
「あら、来てくれたの。ちょうど今、コーヒーを飲もうと思ったの。ちょっと待ってて、このサイフオン洗ってくるから。その部屋よ。」
 俺は首を振っているだけだった。声を出せないのだ。
 彼女が言うがまま部屋に歩きだすと、背中の方から、急いで階段を降りる音が聞こえた。女の部屋に主がいないのに入る事にいききか抵抗があった。幸い戸が開いていた。
 俺は部屋に入って回りを眺めていた。右手は押し入れで、その手前にジンの空瓶が六木立っていた。正面は窓に赤いカーテンが引いてあった。そう言えば彼女は研究室等の窓のカーテンが開いていると、いつも閉める事を思い出した。そのカーテンの手前に立机があった。机の上はジンの空き瓶に菊が一本ささってあるだけだった。その隣の小さな本棚には上段に実験書、中段に教科書やノート が、そして下段には三島由妃夫の本が入っていた。
 学校で使う本以外の本は三島由妃夫の本だけだった。他の小説集も詩集もなかった。左手に茶箪笥があり、上にプラスチックの容器が載っていた。そして、部屋の中央には炬煙台の上に板を載せた茶卓があった。

「座わってよ。立ってないで。」
 サイフォンや茶碗を盆に載せて、彼女が戻って来ていた。俺は少し中に入って座わろうとした。
「もっと中に入ってよ。ここは入り口でかえって邪魔になるわ。」
 彼女は盆を持たぬ片方の手を俺の肩に掛けながら言った。俺は言われるままに、中に入って座わり直した。
「コーヒーでいいでしょう。」
 彼女は盆を台の上に載せ、カップと二人分の水が入ったサイフォンを拭きながら言った。それから、茶箪笥からミルとコーヒー豆とアルコールランプを取り出した。
 サイフォンをセットして、回りをもう一度布巾で拭いて、アルコールランプをその下に置く。
 ミルにコーヒー豆を入れて挽くと贅沢な香りが俺の鼻をさする。

 少し贅沢だなと思った。
 俺たちは、友達が来た時には、コーヒーか紅茶か煎茶を出すのが普通だ。茶菓子を出したりする事はほとんどなかった。ミカンなど有れば出すという程度であった。しかし、そのコーヒーも大概はインスタントだ。俺の部屋とサイフォンとの不衡合を感じながらも、逆に俺にもこの位の贅沢なら出来そうだなといった妙な安心感が働らいた。
 俺はコーヒーと茶の湯のセットを今日買おうと思った。
 衝動的にそう思った。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/05(火) 09:37:33|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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