飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その十二)

 彼女が、サイフォンにコーヒーの粉を入れて、アルコールランプに火をつけた。

「このサイフォンは、一揃いでどの位するの。」
「いろいろあるけど、店で豆を挽いてもらえば、このミルはいらないし、……。この位で三、四千円かな。でも、このセットを買ってしまえば、豆代はインスタントコーヒーと同じ位だから、そう高くはないわよ」
 そう言われても、やはり高い。仕送りが一万五千円、それに家庭教師のアルバイトが六千円、夜警のアルバイトが八千円、しめて二万九千円で生活しているのだ。しかも、今月は、本を買いあさり過ぎたし、アルバイトもほとんど休んでいる。高い買い物ではある。
 そうではあるが、買おうと思った気持ちは変わっていない。今日はポケットに一万円入っている。それで買おうと思った。茶の道具は最低限で揃えれば、三千円位だと聞いていたし、両方買ってもお釣がくる。夏にトラックの運転でアルバイトした金が貯金されているはずだから、何とか食える。計算しながら、サイフォンの湯が昇っていくのを見ていた。

「これ飲んだら、悪いんだけど、外に出ましょう。友達が来るのよ。」
 ランプに蓋をしながら彼女が言った。
「男……。女……。」
 俺が聞いた。
「女よ。今日は私の誕生日でしょう。そのお祝いをやるって言うの。私は嫌だって言ったんだけど、どうしても来るって言うのよ。私は嫌だから一緒に外に出ましょう。」
「大丈夫かい。友達なんだろう。そんなことしない方がいいよ。俺の事は気にしなくていいから、そっちでやった方がいいよ。」
 俺は二つの約束が重なって困っているんだなと思ったので、そう辞退した。
「違うのよ。たいした友達じゃないのよ。ただ同郷だというだけの友達なの。何もない友達なのよ。誕生会なんてやったってつまらないわ。今日は一緒に飲みたいの。それとも、あなたが嫌なの。」
「いや、別にそういうわけじゃないよ。ただ友達に悪いと思っただけさ。じやあ、一緒に出よう。」
 彼女がコーヒーをカップに注いでくれた。
「何杯」
 砂糖入れを茶箪笥から取り出しながら言った。
「二杯」
 俺は直ぐに答えた。本当なら三杯が丁度なのだが、砂糖を多く入れる事が恥かしかった。それで一杯分減らしておいたのだ。彼女は砂糖を入れなかった。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/06(水) 07:06:49|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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