飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その十四)

 彼女は、俺の言うことにすんなりと同意した。
 同意されて、春に理科棟が閉鎖された時のことを思い出した。彼女は理科棟に向かって手を振って、仲間だと睨まれたことがあったのだ。俺は彼女のその行為によって彼女の奥深いところを探った。俺は、今日も休めるかなという位にしか思っていなかったのだ。
 ところが、彼女は違うと言うのだ。何か心のもやもやとしたものが、何とはなしにとれてすっきりしたと言うのだ。ただそれだけだと言うのだ。彼女は、自分の曖昧とした不満が、一時的にせよ清浄きれたことに感謝しただけだったのだ。
 それを、とやかく言われて、迷惑だったのだ。それがわかると、かえって彼女を奥深い人と感じた。人間の考えだって、法則のように単純に心のおもむくままに従えるほうが、より深いと言えるのではないか。しかも、それに行為までついている。
 俺は、あの時にそう思ったのだった。

 コーヒーを一杯だけ飲み終わると、役女は直ぐに俺を急立てた。俺を廊下に出して、中で着替えているらしかった。
 煙草に火をつけたが、マッチの燃えさしを捨てる所がない。燃え残りの軸を手に持って煙を吸った。 赤い燃焼部が一センチメートル位手元に近づいた。そして、その先が灰になった。煙草を縦にして、灰が落ちないようにした。もう一度吸おうとして、煙草を水平にした時、灰が落ちそうになった。急いで左手を出したら、うまい具合いにその上に落ちた。
 こんなに寛容に女を待った事があったろうか。俺は常に大柄に女をあしらっていた。
 女は、俺が高飛車に出ると大抵、誰もが下手に出てくれた。だから、俺は自分の気持をディフォルメして大柄さを作っていたのだ。
 俺は、平然と苛立ちもなく廊下で女を待っていた。平然としている自分に俺は呆れてはいた。みっともないではないか。左手を灰皿にしてじっと廊下に待つ男と、一枚の戸を挟んで、悠然と服を着替える女と、考えただけで嫌にはなる。自分を卑下したくなる。そのはずなのに俺は何ともないのだ。
 啓子が一つ年上のせいだろうか。コーヒーサイフォンのある生活をしている女だからだろうか。

 手元まで火がやってきた。俺はスリッパを脱いで裏返しにして、そこで煙草の火を擦った。煙草の燃え残りを手に取って、スリッパを履き直した。
 しはらくして、啓子が部屋から出てきた。ジーンズのコートを着て、茶色のズタ袋を下げていた。俺の顔を見て微笑んで、それだけで、彼女は先になって歩き出した。細くて小さな身体を大きく見せるように肩を大きく揺すって歩く後ろ姿に、可愛らしい小さな尻が似合っていた。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/08(金) 16:01:42|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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