飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その二十一)

 彼女は意識があるのかもしれないとも思った。彼女の腹に手を載せてみた。
 反応はなかった。意識があって黙っているのか、それとも、意識が戻っていないのか、それは分からなかった。俺はその手をどうしたものか迷った。しばらくその格好でいた。彼女が寝返りを打って、俺の方に身体を向けた。自然、俺の手は彼女の腰に回っていた。
 俺はそのまま眼を瞑った。
 
 二人とも午前中部屋に居た。今日は土曜日で半ドンだ。もう学校は終わっている筈だ。俺は部屋から出なければならないのだが、そのタイミングが見つからなかった。腹が空いたという理由を付けて暇乞いをした。ところが、彼女も一緒に出ると言い出したのだ。
 断わる理由もないので言われる通りにすることにした。俺が先に出て、彼女が部屋から出るのを待っていた。彼女が部屋の戸を開けた時、斜め向かいの部屋の戸が開いた。俺は反射的にそちらに背を向けた。彼女が鍵を掛けるのを待って、歩き出した。
 俺は前を歩いている女を見て、まずいと思った。町子なのだ。後ろを向かれたら、万事休すだ。俺は出来るだけ歩幅を縮めた。町子が早く階段の角を曲がればいいと思った。その間、大した距離ではないのだが、ひどく長く感じられた。
 やっと、町子が曲がって視野から外れるところまで行った。身体の横をこちらに見せた。と、その瞬間に、彼女はちらっとこちらを伺ったような気がした。一瞬だったし、顔を大きくは動かさなかったが、間違いなくこちらを伺ったと思うのだ。しかし、それだけだった。彼女はそのまま階段を降りて行った。俺は却って不安になった。俺だとわかって、そのまま行ったのだろうか。それとも気付かなかったのだろうか。
 俺が町子に気を取られていると、隣から声が聞えた。
「彼女はいい人よ。とっても真面目で、私とは大違いよ。」
 不意に言われて、何とも答えられなかった。役女の顔を見て、微笑んでいた。そして、微笑んだ自分に気が付くと、それが気になった。俺は何時でもこうしてごまかしているのではないだろうかと。
 俺は研究室で彼女が突然ガス栓を開いた時のことを思った。あの時も微笑んで俺はごまかしたのだ。あの時は気付かなかった。驚いたからだと思った。が、今考えるとそれだけではなかったような気がしてきた。
「ガスの音の恐ろしさを知っている。」
 彼女が微笑みながら言った時も、俺は微笑んだだけだった。そして、彼女は微笑んだままガス栓を開いたのだった。薄気味悪いガスの噴出音を聞きながら、俺は強ばっていくのを感じた。どうしたものかと考えた。が、動くこともならず、そのまま立っていた。
 彼女が俺の隣の椅子に座わった。どうしたものかと心は平静さを失なっていたが、じっとしているより術はなかった。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/15(金) 09:02:07|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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