飛翔

作品原案として書き連ねています。 書きかけで試行状態ですが、踏ん切りをつけるために、一度手を離すことを目的としています。

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夜の長い街にて(その二十二)

「二人なら死ねるのね」
 彼女は感概深そうに言った。ガスの臭いが息先に流れた。彼女は立ち上がると、ゆっくりガスの元栓を閉じた。
 俺は留息が出た。そして、ようやく窓を開ける事を許可きれている事に気付いた。
 俺は黙って窓を開けた。それから、彼女を振り返り微笑んだ。俺は微笑むという行為を、自分の判断を曖昧にする時に使っていると気がついた。
 洋子に知れるなと思った。町子はきっと洋子に話すだろう。洋子の前で下卑た冗談も言った事はあるのだが、啓子との事を知られるのは嫌だった。実感を伴って洋子の心に意識されるだろう事が嫌なのだ。一歩位離れた所で冗談が言えるようでありたかった。
 洋子の部屋に行けば、必ず茶祇台を挟んだ向こうに座わる。その位の距離が欲しかった。決して隣に座われる近さでもなく、遠く離れるでもない、不安定な位置に置きたかった。時々見せるエプロン姿のくだけた態度と、学校でのつんと澄ました態度の調和の上に、彼女を置きたかった。それが崩れるであろう事を思ったが、なすべき事を知らなかった。その時も無意識に薄笑いが出ていた。

 帰ると直ぐに寝転んだ。疲労感があった。が、どことなく心地良かった。彼女の感覚が俺の身体に残っていた。電気をつけないでいた。部屋の暗さが増してきた。向かいの洋一の部屋に灯がついたのだろう。明りが漏れてきた。俺は静かにして、音をを出さないようにし ていた。
 啓子は何を考えているのか、解せぬ事ばかりであった。結局俺は利用されたのだろうかとも考えたが、それを納得はしたくなかった。六ケ月程で彼女は俺の前から姿を消す筈なのだ。そして、昨夜酔いの中で垣間見た男と一つの家におさまり、主婦という名の女になるはずなのだ。子供が出来て、あたふたと家事に追われ、その中に幸福を見出す女になるだろう。その女が今になって馬鹿げた行為をしなければならないのだろうか。分かるような気もするが、どこか解せぬところが残ってしまう。
 あれこれと考えているうちに、外からの光は人工の光だけになっていた。
 煙草を手探りで探した。
 隣の部屋の戸が開く音がした。例のごとく、しばらくがたがたと音を立てていたが、ヒットラーへの挨拶が始まって、ロシア民謡のレコードが掛かった。直ぐに隣の戸がまた開いた。そして、俺の戸をノックする音が聞こえた。俺は声を出して返事してしまった。しまったと思ったが遅かった。起き上がったのと、戸が開いたのが同時だった。
 和夫が入って来た。和夫が電気をつけた。眩しい橙色の光が俺の網膜を刺戟した。眼が慣れてくると、そこには和夫のしかめ面があった。
「お前を許せない」
 突然、彼が言い放った。
「お前は人を不幸にする。断じて許せない。人は皆、幸福にしてやらねばならぬ。」
 彼が何を言おうとしているかは定かではない。だが、彼のお題目を唱える口調は何時もの事だった。驚く事ではないのだ。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/16(土) 11:08:25|
  2. ○ 夜の長い街にて(フィクション) 
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親馬シン

Author:親馬シン
 原点であるフィクション「夜の長い街にて」を整理していく中で、自分が求めていたものの輪郭が明らかになると思っていた。
 しかし、実際にはそうはならなかった。

 今は、知りたいことを追い求め、何も考えずに書きとめるだけだ。それでも充分満足している自分を感じている。

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